ダイバーシティ経営の定義とメリットとは?「新・ダイバーシティ経営企業100選」から外国人活用事例を紹介

初めまして。ALOTE事業責任者の小澤春奈と申します。<外国人と働く>をテーマに執筆しています。

外国人雇用の基礎知識から外国人の生活まで、様々な視点からお話ししていきます。

今回は「ダイバーシティ経営」についてお話しします。

この記事を読めば、ダイバーシティ経営とは何かが理解できます。また、経済産業省が推進する「新・ダイバーシティ経営企業100選」から好事例をご紹介します。

ダイバーシティの定義とは?

経済産業省では、ダイバーシティ経営を多様な人材(※1)を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。(引用:経済産業省「ダイバーシティ経営の推進」より)

※1 多様な人材: 見た目でわかりやすい表層的な多様性(性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無など)だけではなく、表面上に出てこない深層的な多様性(キャリアや経験、働き方など)を含みます。

※2 能力:には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含みます。

※3 イノベーション:(経済発展の基本動因となる)技術の革新。(引用:三省堂「新明解国語辞典第六版」より)新たなアイディアや技術を取り入れることで、今までにない価値をビジネスモデルやサービスに取り入れることで、技術革新をもたらすことです。

イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とは、組織内の個々の人材がその特性を生かして働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性を向上させ、自社の競争力強化につなげる、といった一連の流れを生み出しうる経営のことです。 

ダイバーシティ2.0

 経済産業省は、2018年4月より「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」(座長 北川哲雄 青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授)を再開し、取締役会における多様性の確保と、企業と労働市場・資本市場の対話促進のための方策について計3回の検討を行い、提言を取りまとめました。
 併せて、2017年3月に策定・公表した企業が取るべきアクションをまとめた「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を2018年6月8日に改訂しました。

ダイバーシティ経営が必要とされる理由とは?

なぜ今、「ダイバーシティ経営」が選ばれているのか

ダイバーシティ経営が必要とされている背景には、グローバル化をはじめとする市場環境の変化が考えられます。先の見えない現代社会の変化は、競争環境やビジネスの不確実性に繋がります。

そんな状況下であっても、個々の企業は、直面する技術構造や市場環境の変化の中で競争し、勝ち残っていかなければなりません。

競争優位性を築くために必要な経営戦略の一環として「ダイバーシティ経営」が選ばれているのです。自社の競争力を強化し、企業の目指すゴールに向かって戦略的に活動するための人財活用戦略とも言えます。

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理由①労働力不足

総務省平成28年度版情報通信白書より日本の将来推計人口グラフ

(出典:総務省「平成28年版情報通信白書」より)

ダイバーシティ経営が必要とされている理由のひとつめは、「労働力不足」です。

ご存じのように、日本の総人口は既に減少に転じており、2008年をピークに少子高齢化に歯止めがきかない状況となっています。

上記のグラフは平成28年(2016年)のデータです。2016年以降「推計値」の点線より右は予想の数値ですが、折れ線の「高齢化率」が右肩上がりになっているのが目立ちます。

さらに棒グラフの黄緑部分の減少にご注目ください。この部分が生産年齢人口(15歳以上~65歳未満)であり、日本国内の労働力不足が、今後ますます深刻化することが予想されています。

2040年には生産年齢人口が5,978万人、総人口の53.9%しか働ける年齢の人口がいなくなる、と予想されているのです。このような生産年齢人口の減少は人手不足を招き、企業活動に大きな影響を及ぼすと懸念されています。

日本は諸外国に比べて少子高齢化の進行が早く、既に従来の勤務条件や勤務形態での人材確保には限界があります。事実、帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2022年1月)」では、企業の47.8%が人手不足である、と回答しています。

人手不足の解消策のひとつがダイバーシティ経営です。女性や、高齢者、障がいのある人、外国人など多様な人材を積極的に受け入れ、採用人材の母数を増やす必要があります。既存の意識に縛られていては、労働市場の変化に置いて行かれ、競争力を失ってしまいかねません。

労働力不足に関しての詳しい記事は、以下のリンクで詳しい内容がご覧いただけます。

< 外国人が働いてもまだ足りない!2030年、日本は深刻な労働力不足に >

理由②グローバル化

在留外国人の変遷グラフ

ダイバーシティ経営が必要とされている理由のふたつめは、「グローバル化」です。

今までは、国内企業における生産活動の多くは国内消費によって支えられており、雇用もまた国内供給(日本人雇用)で事足りていました。しかし、技術発展や流通の拡大によって国内外のモノやヒトの行き来が活発になることで、グローバル化が急速に進行し、今日に至っています。

感染症流行の影響で多少停滞はしていますが、今後もグローバル化が後退することはなく、国を超えた企業の経済活動が活発になることが予想されます。人口減少が進み国内市場が飽和したことで、内需減少の一途をたどる日本企業の生き残りの策の一つが海外進出することであることも事実です。

また、日本国内の労働賃金高騰により、賃金の安い中国や東南アジアへの工場移転が促されてきました。一方で、日本の賃金の高さに魅せられた外国人労働者が増加し、国内の人手不足分野の現場労働を支えている現状もあります。

このように消費規模や生産活動が大きく拡大する中で、企業は人種、国籍、言語、宗教、生活様式、働き方など多様な人材の活用を求められています。

理由③価値観の多様化

VUCAの文字の前で手を組む人

「VUCA」という言葉を聞いたことはないでしょうか?

まさに「予測不可能」な現代を象徴したような言葉で、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとってVUCA(ブーカ)と呼ばれています。

このように不確実かつ変化の早い世の中に順応するためには、従業員や会社全体の意識を変えていかなければなりません。そのための手段として、様々な価値観を持つ人材を活用するためにダイバーシティ経営が必要とされています。

消費生活の多様化はその代表例とも言えます。

私たちは、大量生産・大量消費の時代を経て、物質的には豊かな生活を享受しているように思えます。モノがあふれるようになり、大抵のものがすぐに手に入る世の中になっています。

しかし、かつてモノを「所有」することがステータスだった時代は終わりを告げ、「利用」したり、「シェア」したりすることが当たり前になりつつあります。

このような消費生活の変化は、スマートフォンやSNSなどの普及によって加速が促されていると言えます。さらに、新型コロナ禍のこの過渡期を迎え、企業は今、消費行動の多様化への対応が求められています。

また、企業やそこに所属する人自身にも、多様化の波は押し寄せています。働き方の多様化です。

決まった時間に満員の通勤電車で出勤し、遅くまで残業してベッドタウンにある自宅へ帰る。このような働き方が当たり前だとされてきました。しかし、終身雇用制度の崩壊、年功序列の撤廃など、時代の変化とともに働き方も変革のときを迎えています。

その背景に少子高齢化に伴う人手不足があります。政府は2018年、「働き方改革関連法」を成立させ、働き方の多様化を推進しています。

会社などの組織に縛られたくないという若い世代などが先駆けとなって既存の考えに縛られない自由な働き方を求める傾向が強くなっています。エンジニアやプログラマーの中にはパソコンだけでどこでも仕事ができるという働き方を良しとする人が多かったためです。

しかし、在宅勤務が当たり前となった現在の働き方の多様化は、これまでの比ではないでしょう。テレワーク(在宅勤務、Web会議、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務)、時差出勤、ローテーション勤務、これからも続々と増えていくはずです。さらなる働き方改革が求められる中、企業は対応を求められています。

ダイバーシティには2種類ある

表層的ダイバーシティと深層的ダイバーシティ

ダイバーシティ(英語:diversity)とは、直訳すると「多様性」という意味になります。

主に、他人と自分とは違うと判断するときに用いる特徴のことを指します。大きく分けると「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」とに分けることができます。

この多様性を企業経営に取り入れようとすることがダイバーシティ経営なのですが、日本ではとかく、外見でわかりやすい表層的ダイバーシティに偏りがちです。

今後の動きとして、深層的ダイバーシティを活用した経営を目指していく必要が出てくるでしょう。

ダイバーシティの歴史と変遷

ダイバーシティの始まりはアメリカだと言われています。そして、時を経て、21世紀に入り大きくグローバル展開を見せています。

年代を分けて、ダイバーシティの変遷を見ていきましょう。

1960年代

<アメリカ>

黒人差別に対する公民権運動の高まりを受けて、1964年に公民権法が議会で成立、人種差別撤廃運動が進みます。

しかし、公民権法が制定された当初、禁止事項に該当するのは直接的差別に限られ、差別的意図のない雇用上の不利な取扱いなどは禁止されていませんでした。

1970年代

<アメリカ>

1971年のアメリカ連邦最高裁判決では、告訴対象が間接的差別にも拡大されました。また、黒人女性に対する大手企業の差別に対して、裁判では多額の賠償金が支払われるという事件が起き、企業は部分的にダイバーシティを認めるようになります。

1966年に始まったアファーマティブ・アクション(Affirmative Action)、積極的格差是正措置については、1976年までに企業の70%以上が実施するようになりました。

<ヨーロッパ>

アメリカにおける差別に対する考え方は、欧州共同体(EC)にも影響し、1976年男女均等待遇指令が制定されました。

1980年代

1980年代に入って「ダイバーシティ」という考えが浸透し始めます。マイノリティの影響力が社会的に拡大したことで、新たなビジネスチャンスが生まれ、そこで成功した企業がダイバーシティ理念を積極的にマーケティングに活用し始めたことが背景にあります。

<アメリカ>

1987年、国内企業でダイバーシティへの取り組みが加速し始めました。アメリカ労働省の発表した内容がきっかけとなり「今後の新規労働力は白人女性とマイノリティ人種と移民になる」という考え方にシフトしたのです。

<日本>

1985年、日本でもアメリカの動向を受け、職場における男女の雇用の差を禁止する「男女雇用機会均等法」が制定されました。

1990年代

企業の考え方が変化し始め、ダイバーシティを競争力強化の手段として活用する動きが見られるようになります。新商品や新サービスを生み出したり、労働市場の変化への対応手段としたのです。このような経済活動の成果として事業が発展することにより、より一層ダイバーシティ経営が脚光を浴びることとなりました。

<日本>

1999年、「男女共同参画社会基本法」が制定されました。

2000年代

21世紀以降、経済のグローバル化はさらに進行し、国を超えた企業の経済活動もより活発になりました。そのため、人種、国籍、文化的背景などの異なる社員を活用し、企業として成長していくために、国や企業の取り組みが重要となってきています。

多様性を活かし、互いのアイデンティティを尊重し合い、新しい価値を作り出す「ダイバーシティ・インクルージョン」が経営戦略として必要となっています。

<日本>

2003年の日経連(当時)のレポートで初めて、「ダイバーシティ」という言葉が使用されました。

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは?

国の政策としてのダイバーシティ「ダイバーシティ2.0」

ダイバーシティ2.0ロゴ

2017年、経済産業省は「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」を設立。企業がとるべきアクションをまとめた「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を策定しました。

(出典:経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会報告書」より)

ダイバーシティの概念は浸透してきたものの形式的なものにとどまり、企業課題の解決に結びつかないという課題を抱えていました。

しかし、「ダイバーシティ2.0」によって、行動ガイドラインが具体的に提示されました。ここでは、「多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指して、全社的かつ継続的に進めていく経営上の取組み」と定義されています。

「ダイバーシティ2.0」では、実践のための7つのアクションが提示されています。

  1. 経営戦略への組み込み
  2. 推進体制の構築
  3. ガバナンスの改革
  4. 全社的な環境・ルールの整備
  5. 管理職の行動・意識改革
  6. 従業員の行動・意識改革
  7. 労働市場・資本市場への情報開示と対話

ダイバーシティ経営のメリット

ダイバーシティ経営について理解が深まったところで、この戦略を進めるメリットを考えていきましょう。

メリットの中でも「人材の確保とイノベーションの創出」のメリットは計り知れません。

四大経営資源(ヒト・カネ・モノ・情報)の中でも、ヒトは最も重要視されています。

多様な人材が持つアイデアや発想、スキルを活かすことができれば新たなイノベーションの創出につながります。今後ますます多様化する顧客ニーズを的確にとらえ、ビジネスチャンスに対応できるようになるのです。

1.人材の確保、雇用拡大

人手不足が進む中、優秀な人材をより多く長期間、企業に定着させることの重要性が注目されています。

そのためには、さまざまな価値観や働き方の多様性を認めることで、みなが働きやすい魅力的な職場にすることが不可欠です。組織としてダイバーシティ経営を推進することで、優秀な人材の採用や離職率の低下が期待できます。

また、日本人だけでなく外国人にも採用の門戸を開くことで、多様性が広がり、日本人とは違った考え方やアイデアを企業に取り入れることができます。日本の生産年齢人口が減少し続けていることも考慮すると、これから外国人を雇用することは新たな労働力の確保にもつながることでしょう。高齢者、障がい者、外国人も含めた人材を受け入れダイバーシティ経営を推進することで、不足分の労働力を補うことができます。

2.ビジネスチャンスの拡大

年齢や性別や国籍といった表層的な多様性が注目されがちですが、これまでの経験や価値観といった深層的な多様性も広がることで、新たなアイデアが生まれやすくなります。新しいアイディアも、何もない所からアイディアを生むのが得意なタイプや、出されたアイディアをより良いものに発展させるのが得意な人などさまざまです。多様な人が意見を出し合いながら、アイディアは形になっていくものです。

社員の過半数以上が外国出身である企業では、新たなアイディアが人材の多様化により生み出されており、多くのビジネスチャンスが生まれています。様々なスキルや視点を持つ人材が集まることで、独自の着眼点から、今までにない価値の高い商品やサービスを作るチャンスが広がるのです。

3.企業価値・評価にプラス

近年の投資家の出資傾向として、収益力や技術力といったこれまでの観点に加え、イノベーションを持続させる仕組みや環境、コーポレート・ガバナンスなど「経営力」をより重視していく考えを持っています。ダイバーシティ経営がなされているか否かは、その判断基準ののひとつとして注目されています。ダイバーシティ経営に取り組んでいることが公開されることで、ステークホルダーからの企業価値や評価も高まります

近年、企業への投資に際して、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の側面を重視するESG投資といった考え方が主流になっており、特に、ダイバーシティ経営の一環として、女性の活躍を推進することで注目を集める企業も多くなっています。

4.従業員の成長

ダイバーシティ経営により、人材の多様化が進み、様々な価値観を持つ人と接する機会が格段に増加します。

お互いが自分自身の意見を出し合い、ときには衝突させながら交流していく過程で、個々の視野や考え方の裾野が広がり、仕事へのモチベーションが向上、成長も促されます。

5.働き方改革の推進

多様な人材の確保は、「多様な働き方」が実現できなければなしえません。

女性社員・外国人が活躍できる環境づくりのためには、子育てや介護を支援する仕組みづくり、テレワークや時短勤務などの選択肢を増やしていかなければなりません。

多様な働き方の実現は、離職率の低下につながり、優秀な人材の定着が可能となります。労働力の長期的な確保、企業価値の向上が見込めるのです。

女性活躍推進法

(出典:厚生労働省「平成 30 年度雇用均等基本調査」の結果概要 図5 引用)

近年、人種・国籍不問として、ダイバーシティの取組みの対象を増やしている企業が多く見られるようになりました。

しかし、日本企業の多くでダイバーシティの捉え方が性別に偏ってしまう要因として、以下のものが考えられます。

  • 男性=総合職、女性=一般職という固定観念
  • 新卒採用重視
  • 終身雇用、年功序列主義

など、日本独自の人事制度や悪習によるものが多数存在します。これらによって、性別の役割固定観念であるバイアスが生まれてしまい、職場での女性の活躍が阻害されてきました。

安倍政権が掲げた「日本再興戦略」を受け、2015年に「女性活躍推進法」が10年間の時限立法として施行されました。正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」です。これは、積極的に働きたいと考える女性たちが、いきいきと活躍できるような社会づくりを目指す法律です。


2016年4月より、労働者301人以上(2022年4月1日より101人以上)の事業主は、女性の活躍状況の把握、課題分析、女性の活躍推進に向けた行動計画、女性の活躍に関する情報の公表などが義務付けられるようになりました。


つまり、今後は大企業だけでなく、中小企業でも女性活躍を推進していくことが必須になります。

ダイバーシティ経営のデメリット

ダイバーシティ経営には大きなメリットがありますが、一方で導入にあたってデメリットや課題も存在します。

国籍や人種、価値観などが異なる多様な人たちが集まれば、当然意見の対立や誤解も生まれやすくなります。それによって、ストレスが発生したり、チームとしてまとまりづらくなるといったリスクも発生するでしょう。

「同一であること」が当たり前で、コミュニケーションが容易だったこれまでの組織とは異なりダイバーシティ経営には「分裂」という危険性もはらんでいます。

1. ミスコミュニケーションによる従業員のストレス増加

ダイバーシティ経営を推進することで、さまざまな価値観を持った労働者が協働することになります。そのため、文化的背景、言葉の壁、仕事に対する考え方の違いなどを感じ、ストレスを感じてしまう可能性があります。

特に、日本はハイコンテクスト文化と呼ばれ、「阿吽の呼吸」「空気を読む」ことが重視されます。これに慣れている日本人同士であればまだしも、ダイバーシティ経営を推進している場合、外国人労働者が多いことも忘れてはなりません。

言葉にならない部分の情報が多すぎて、ミスコミュニケーションが発生しやすいため、注意が必要です。「違い」による衝突リスクも大きく、悪意はなくとも先入観から不要な気遣いをしてしまい、上司と部下ですれ違いが生じることも考えられます。

2.パフォーマンスの低下

多様性のある組織になると、ひとつのチームとしてのまとまり感が低下する恐れもあります。

考え方の違いから話が前に進まなかったり、場合によっては揉めてしまったりと、パフォーマンスの低下を引き起こす危険性があるのです。

人は誰しも多かれ少なかれ偏見を持っているもの。無意識のうちに性別や年齢、国籍、人種などの違いから仲たがいを起こし、多様な人材が実力を発揮できない場合もあります。

3. 人事評価による従業員の不満増加

多様な人材が集まれば、人事評価も複雑化してしまいます。人事評価に不公平感があらわになると、社員の不満増加や離職につながる可能性が出てきます。

また、多様性を認めることで、少数派が生まれてしまうことは仕方のないこと。例えば、日本人比率の高い企業の外国人や、育児や介護などで短時間勤務をしている社員に対する評価についての検討が必要です。

特に時短勤務社員の場合、自分の勤務状況が他のメンバーやチームに迷惑をかけていると感じてしまうケースも考えられ、心理面でのフォローが求められることもあります。

ダイバーシティ経営の成果

成果を考える前提として、ダイバーシティ経営の目的とは何でしょうか?

 社員の多様性を高めること?

 福利厚生やCSR(企業の社会的責任)を満たすこと?

正解は、「経営戦略を実現する上で不可欠な人材を確保し、そうした多様な人材が意欲的に仕事に取り組める職場風土や働き方の仕組みを整備することを通じて、適材適所を実現し、その能力を最大限発揮させることにより「経営上の成果」につなげることが目的です。

つまり、

  • 【手段①】経営戦略を実現するための多様な人材を確保する
  • 【手段②】その人材が働きやすい職場環境を整備する
  • 【手段③】適材適所を実現して能力を最大限発揮させる

上記の手段を使って、「経営上の成果につなげる」ことが目的なのです。

ですから、多様な人材を確保しただけで満足していては、最終目標は達成できていません

経済産業省では、ダイバーシティ経営の成果を以下のように提示しています。(出典:経済産業省「ダイバーシティ100選目次」より)

 

ダイバーシティ経営の成果イメージ

(出典:経済産業省「ダイバーシティ100選目次」より)

上記の、①と②は、企業の収益・業績に直結する「直接的効果」をもたらすものです。

③と④は、企業の収益・業績に「間接的効果」をもたらすものです。
 ダイバーシティ経営には、人材の確保だけではなく、定着、能力発揮などのための様々な取組が含まれ、その過程で、①~④の成果が複合的に出現してきます。

①プロダクトイノベーション:
対価を得る製品・サービス自体を新たに開発したり、改良を加えたりするもの
(多様な人材が異なる分野の知識、経験、価値観を持ち寄ることで、「新しい発想」が生まれます。)
②プロセスイノベーション:
製品・サービスを開発、製造、販売するための手段を新たに開発したり、改良を加えたりするもの(管理部門の効率化を含む)
(多様な人材が能力を発揮できる働き方を追求することで、効率性や創造性が高まります。)
③外的評価の向上:
顧客満足度の向上、社会的認知度の向上など
(多様な人材を活用していること、及びそこから生まれる成果によって、顧客や市場などからの評価が高まります。)
④職場内の効果:
社員のモチベーション向上や職場環境の改善など
(自身の能力を発揮できる環境が整備されることでモチベーションが高まり、また、働きがいのある職場に変化していきます。)

「新・ダイバーシティ経営企業100選」から成功事例を学ぶ

(出典:「新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライム 令和2年度受賞企業一覧」より)

「日本ユニシス」(令和2年度100選プライム選定企業から)

日本ユニシス会社概要

※「100選プライム」とは

「ダイバーシティ経営の取組」をより、「中長期的に企業価値を生み出し続ける取組」としてステップアップするべく「ダイバーシティ2.0」に取り組む企業が対象。「ダイバーシティ2.0行動ガイドラインー実践のための7つアクション」の取組上状況及び取り組みによる企業価値向上の成果を評価。

新・ダイバーシティ経営令和2年度100選プライム「日本ユニシス」

【人材戦略】

「役割」に視点を当てた人材ポートフォリオが必要であると考え、「イントラパーソナル・ダイバーシティ」(個人内の多様性)を一人ひとりが高めること、そしてそれを可視化する仕組みの構築に注力。

【ダイバーシティ経営推進のための具体的取組】

社会課題解決型のビジネス創出を目的とした「ソーシャルインパクトプロジェクト」を組織体制として導入。プロジェクト参加者のエンゲージメントスコアは全社トップクラス。

・「イントラパーソナル・」ダイバーシティ」を人材のローテーションやアサインの改革と連動するように設計。

【ダイバーシティ経営による成果】

社会課題解決型ビジネスを、特に成長が見込める「注力領域」として資源投入を促進したことで、2017 年度から 2020 年度にかけて売上を 270 億円から 480 億円に成長させ、コロナ禍の中でも 2021 年度には 600 億円の売上高を予想。

・全社員を対象としたテレワーク制度の導入をはじめとする働き方改革の推進により、取組前(2015 年)と比較して 2020 年の残業時間数は 4.6 時間減、有給休暇取得率は 17% 増。

・男性の育児休業取得率は、2019 年度には 23.4%(平均取得日数 55 日)まで上昇し、2018 年度にはイクメン企業アワード両立支援部門グランプリを受賞。など

「東和組立株式会社」(令和2年度新・ダイバーシティ経営企業100選から)

東和組立株式会社会社概要

【人材戦略】

・属性による業務の固定化を廃し、人材の特性に合わせた適正配置による生産性向上

例)「障がいのある社員には補助的な仕事」「女性にはオペレーター業務」といった固定化をなくし、属性を超えた業務範囲へ

東和組立株式会社具体的取り組み内容

【ダイバーシティ経営推進のための具体的取組】

・組織全体でのコミュニケーション活性化と改善活動を実施

例)経営層が率先して3S(整理・整頓・清掃)活動実施、月例会前回でグループ表彰、経営層と社員との交流を図る社長ミーティングの実施、など。

・IT、IoTを活用した業務改善

例)従来は熟練工のみが対応していた検査工程の代替としてIT活用による内製した画像判断装置導入、多様な人材とのコミュニケーションのための光の点灯で行動開始を知らせる「アクションボード」の活用、など。

【ダイバーシティ経営による成果】

生産能力が 20%向上し、納期が遵守できる体制へと変革

・人材定着率向上(例えば、障がいのある社員の入社 1 年後の定着率は 2016 年から 2019 年で 60%から約 90%へ向上、など)

ダイバーシティ診断ツールを活用しよう

「改訂版ダイバーシティ経営診断ツール」は、「改訂版ダイバーシティ経営診断シート」「改訂版手引き」によって構成される、中堅・中小企業の「ダイバーシティ経営」の実現に必要な現状分析・課題の明確化・対応策の検討・実行に寄与するツールです。

経済産業省ダイバーシティ経営診断シート表面
経済産業省ダイバーシティ経営診断シート裏面
  • 「改訂版ダイバーシティ経営診断シート」:各社の「ダイバーシティ経営」の実現に向けた現状を見える化し、多様な人材が活躍する職場づくりに向けた対応策を検討するためのもの
  • 「改訂版手引き」:診断シートの記載内容を踏まえ、「多様な人材の活躍」に向けた対応策を検討するための考え方や事例を紹介するもの

【改訂版ダイバーシティ経営診断シート】の項目は、大きく分けて3セクションから構成されています。

  1. 経営方針:AもしくはBのどちらの傾向に近いかを、現在の状況、今後目指したいものについて、それぞれ選択する。
  2. 企業プロフィール:社員数、採用者数/離職者数、勤務環境について、実際の数字を記入する。
  3. 経営者の取組~成果:「当てはまる」~「当てはまらない」のうち一つを選び、その点数の平均をカテゴリーごとに算出する。

「改訂版ダイバーシティ経営診断ツール」の主な使い手は、企業経営、人事管理の構築、職場マネジメントに係る専門家としています。

詳細は、経済産業省の「ダイバーシティ経営実践のための各種支援ツール」をご確認ください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

ダイバーシティ経営という大きなトピックでしたが、その目的は非常にストレートでわかりやすいものだということがご理解いただけたと思います。

多様な人材を確保し、インクルージョンの創出をすることはあくまでも手段であり、最終的な目的は「経営上の成果を達成すること」なのです。

現代のVUCA(不確実性の高い)な状況で、それを成しえる経営手法がダイバーシティ経営だと言われています。

競争力を確保し、よりよい成果を生み出せる組織へ成長するキーワードが「ダイバーシティ経営」なのではないでしょうか。

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Haruna Ozawa

氏名: 小澤春奈(OZAWA HARUNA) 東証一部上場の商社にて営業、IR広報で社外対応の実績を積んだ。 その後、「来日した外国人を教育を通して支援したい」という想いから、都内日本語学校に転職。ミャンマー校の立ち上げ、現地校の指導計画立案/実施などの現場の指導体制を整え、帰国。日本・ミャンマー現地合わせて延べ5200人の外国人留学生の現場責任者として指導にあたり、多くの学生を日本社会に送り出す。 日本語学校に8年間勤務し、退職、その後インマイブック株式会社に入社し、教育事業部部長に就任。2021年、多国籍キャリアアップ研修サービス「ALOTE」を立ち上げ、現在に至る。

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