SECIモデルの企業における活用事例とは?暗黙知と形式知をナレッジマネジメントに活かす方法!

初めまして。ALOTE事業責任者の小澤春奈と申します。<外国人と働く>をテーマに執筆しています。

外国人雇用の基礎知識から外国人の生活まで、様々な視点からお話ししていきます。

今回は「暗黙知と形式知」についてお話しします。

この記事を読めば、暗黙知と形式知とは何か、が理解できます。また、暗黙知と形式知を基にしたSECIモデルをビジネスに活用する方法を学ぶことができます。

SECIモデル(『知識創造企業』より)とは?

(東洋経済新報社、野中郁次郎・竹内広高『知識創造企業』1996年)
(東洋経済新報社、野中郁次郎・竹内広高『知識創造企業』1996年)

SECI(セキ)モデルとは、一橋大学大学院教授の野中郁次郎氏らが提唱したナレッジマネジメント理論として知られています。個人が持つ知識や経験などの暗黙知を、形式知に変換した上で組織全体で情報共有/管理し、それらを組み合わせることで、新たに知識を創出するフレームワークを指します。

野中郁次郎・竹内広高による著書『知識創造企業』(東洋経済新報社、1996年)は、日本国内の製造業における製品開発プロセスについて研究したものです。組織内における知識の共有や活用の具体的方法、ナレッジマネジメント(知識資源形成)の活用方法をこのフレームワークによって明らかにしています。

SECIモデルは4つのプロセスで構成されています。この4つのプロセスが機能することで、個々人の持つ知識・経験などの暗黙知を、形式知に変換し、他の従業員でも理解・習得ができる形で共有することができます。すなわち、SECIモデルを活用することで、従業員全体のスキルアップに繋がると言われています。

「暗黙知」と「形式知」について

まずは、SECIモデルの中で使われている暗黙知と形式知の言葉の意味を確認しておきましょう。

なおSECIモデルでは、「暗黙知」と「形式知」を4つのプロセスで活用する方法を解説しています。暗黙知と形式知の意味と違いを理解しなければ、SECIモデルを活用することはできませんので、まず、この2つの概念について、わかりやすくご説明します。

暗黙知とは?

「暗黙知」とは、個々人の経験やそれを基にしたコツや勘による、他者への説明が難しく、説明するために時間や別の知識などを要する知識を意味します。

一般的には、職人技と言われるスキルや、職人が持つ独自の知識をイメージされることが多いかもしれません。しかし、それだけではなく、職種・業種関係なく、成果を出す優秀な人材が持っている「知」が「暗黙知」と定義されます。例えば、新進気鋭のデザイナーの作品、交渉上手な営業マンの話術、わかりやすい説明に定評がある企画担当者のプレゼン方法、などがそれに当たります。

形式知とは?

「形式知」とは、言語化された具体的な説明や図解、数値などによって、誰が見ても理解できるように表現された知識をのことを指します。

一般的には、「マニュアル」や「説明書」「レシピ」などは、この形式知に当たるものです。それを調べたり、習ったりすることで、誰でも習得できる形になった知識のことです。

【図解】暗黙知と形式知の違い

「暗黙知」と「形式知」の具体例を、料理の仕方で分かりやすく解説します。

暗黙知と形式知比較表

料理の仕方を習得するために、みなさんならどんな方法を想像しますか?

まず、どんな料理があるのか、どんな材料を使うのか、調理過程(切る、煮る、焼く、揚げる、味付け、盛り付け、など)についてを調べる人が多いかもしれません。料理本、インターネットなどで料理のレシピを調べれば、それらの知識(情報)は容易に入手できるでしょう。文章や図解、数値などは言語化されており、知識として「料理の仕方」を理解することは可能です。これが「形式知」です。

しかし、実際に料理を始めてみると、知識だけでは対応できないことがあることに気付くはずです。例えば、包丁の持ち方のコツ、大きさを揃えて材料を切る方法、その料理に合わせた形、など、実際に調理に携わってみないとわからないことばかりです。素材の持ち味によって味付けを微調整しなければならない場合、「形式知」だけでは対応できません。これが「暗黙知」と言われるものです。

こうした調理過程の細々としたコツやその時の状況に基づく瞬時の判断などは、実際に何度も経験することでしか獲得できないとされてきました。よって、「暗黙知」を「形式知」に変換し、組織内で共有・管理することが重要になります。

企業において「形式知」を活用することのメリットとは?

「暗黙知」と「形式知」の違いはご理解いただけたかと思います。では組織において、経験豊富な社員や優秀な社員が持つ暗黙知を、そのまま個人のものとしておくことは組織の利益になるでしょうか。

可能な限り情報を整理・共有し、組織全体で活用すべきであることは明明白白です。形式知化することのメリットが大きいことは容易に想像できるでしょう。

この章では、形式知を活用することのメリットを具体的に解説していきます。

メリット1: 従業員の保有スキル向上

メリットのひとつめは、従業員の保有スキルを企業全体で向上させられることです。暗黙知の状態では「個人知」だったものが、形式知として共有されることで「組織知」となり、会社全体の財産になるのです。これにより、日常業務を平準化し、自社の製品やサービスの質のを一定に保つことが可能となります。

また、従業員ひとりひとりが持つ知識/ノウハウを、社内データベース等に集約し管理することで、情報共有も容易になります。個々が情報を必要としたときにデータベースを参照するだけで、該当情報をスピーディーに取得できます。また、データベース化することで、「暗黙知」の保有者であるベテラン社員が情報共有する手間や時間も大幅に削減することが可能となります。

メリット2: 業務の属人化防止

メリットのふたつめは、業務の属人化を防止できることです。「属人化」というのは、「その人にしかできない仕事、その人にしかわからない業務内容がある」状態を指します。組織にとっては非常にリスキーな状態であると言えます。

そのため、「脱・属人化」するために、暗黙知を形式知に変換することは効果的な方法です。今まで属人化によって「その人にしかできない仕事」だったものが、休職者や退職者が出た場合でも、スムーズな引き継ぎが可能となり「形式知を得ることで誰にでもできる仕事」に変えられるのです。

特に、独自のノウハウを持った優秀な社員の暗黙知は、組織や事業にとって貴重な財産です。急な休職・退職が発生しても、引継ぎ対応できるよう早期に形式知化しておきましょう。

メリット3: 生産性向上

メリットのみっつめは、ムダが削減でき生産性の向上が見込めることです。某クラウドサービスのテレビCMのセリフにもありましたが、「それ、早く言ってよ~」という事態を回避できるのです。形式知化によって情報のやり取りがなされていたら、防げるムダは多いはずです。

具体例として、部門を越えた情報共有システム、あいまいなキーワードでも欲しい情報が手に入れられる「あいまい検索」などの活用が挙げられます。また、情報の所有者がわかれば直接教えを乞うことも可能となるため、SECIモデルの他のプロセスで知識変換ができるメリットもあります。

メリット4: スピーディーな後進育成

メリットのよっつめは、優秀な従業員の後進育成をスピーディーに行えることです。

実は、若手社員の大半が「暗黙知」の共体験(SECIモデルの4プロセスで言う「共同化」)による知識変換に対して、否定的な意見を持つ傾向にあります。例えば、「先輩社員の背中を見て覚える」「先輩の技術を目で見て盗む」と言ったやり方を好まないようです。若手社員曰く「昔ながらで、ある意味非効率的で抽象的な教育方法」は受け入れがたく、それによって後進育成が円滑に進まなくなるケースも考えられます。

「形式知」を活用した場合、「暗黙知」の共体験などの教育方法に比べ、スピーディーに後進育成を進めることができます。組織の方針としても、現場任せの教育方法だけではなく、ナレッジマネジメントへの取り組みを推進していくべきでしょう。

このように暗黙知を暗黙知のままにしておくことはせず、人材育成の観点からも、積極的に形式知を活用していくことにメリットがあることがご理解いただけたと思います。

SECIモデルの4つのプロセスとは?

それでは、「暗黙知」と「形式知」についてご理解いただけたところで、SECIモデルの4つのプロセスについてご説明しましょう。

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SECIモデルには以下4つのプロセスが存在します。

これらのプロセスは知識のスパイラル構造となっており、絶えず繰り返す(暗黙知→形式知→暗黙知→形式知…)ことによって、よりレベルの高い知識創出を可能にします。

共同化プロセス

共同化プロセスは、言葉ではなくある種の体験を共有することによって、暗黙知を他人に移転、獲得させるプロセスです。ベテラン社員や職人の仕事を見て覚える、一緒にその作業をやってみるなどの具体例がわかりやすいかと思います。

このプロセスでは、ベテラン社員の持つ暗黙知を、そのまま暗黙知として伝え、相手に獲得させます。形式知に変換する必要はなく、相互理解を深めることが重要なプロセスです。身体や五感をフル活用しながら、勘や感覚などを共体験させることで他者と共有します。

【 共同化 具体例 】

  • 先輩社員の作業工程を観察・模倣し、技能や知識を身につける。
  • OJT(On the Job Training)で、営業周りの一連の流れを課長と一緒に経験する。

表出化プロセス

表出化プロセスは、暗黙知から形式知へと変化させるプロセスです。個人が所有している暗黙知を言語化することで他者と共有するプロセスです。

個人が蓄積してきた知識や経験の言語化や、図や文章で示すことで知識を形式知化します。主観的な知識を共体験させることで他者に移転する共同化とは異なり、表出化は客観的かつ論理的に他者に明示するという特徴があります。

【 表出化 具体例 】

  • 上司や同僚へ業務の報告を行う。
  • 業務マニュアルを作成する。

連結化プロセス

連結化プロセスは、表出された形式知を整理・分類し、異なる形式知を組み合わせることで、新たな知を創造するプロセスです。マニュアル化された他者の知識や共有されたノウハウを、自身の業務や環境にあわせてアレンジしたり、よりよくするために新たなシステムを導入したりすることで、新たなアイデアや知識が生まれます

このプロセスの特徴は、組み合わせて生まれた新たな知は、形式知の状態を保っているということです。「形式知化されたものをアレンジした形式知」として、ミドルマネージャーが事業コンセプトや製品コンセプトなどを分析し、具体化する際にもよく見られます。

【 連結化 具体例 】

  • 業務マニュアルを基に作業を行い、より良い手順に改編する。
  • 他部署の成功事例を参考に、自部署の業務効率化を図る。

内面化プロセス

内面化プロセスは、新たに得た形式知を反復練習等の学習行動を行うことで体得し、形式知から個人の暗黙知へと内面化させるプロセスです。

これは「自己学習」ともいえる作業が必要で、『知識創造企業』では「行動による学習(Learning by doing)」と密接な関係にある、と述べています。

【 内面化 具体例 】

  • 優れた経営者についての記事や書籍を読み、メンタルモデルとして経営者の考えを追体験する。
  • 何度も練習し、作業機械の操作をマニュアルなしで正確にできるようになった。

こうした共同化〜内面化の4つのプロセスを絶えず繰り返すことを知識の「スパイラル構造」と呼びます。暗黙知と形式知の変換作業を繰り返すことで、個人の知識や技能が向上し、結果として組織全体の知識資産となって蓄積されていくのです。

知識創造スパイラルの実例【松下電器ホームベーカリー開発】

では、実際に知識創造スパイラルを活用した開発事例を見てみましょう。

下の図は、1985年1月にプロジェクトが正式に発足し、1987年2月に発売された【松下電器製ホームベーカリー】の開発に関する知識創造スパイラルを図にしたものです。

焼きたてのパンの品質はプロのベーカーにも引けを取らず、3万円台で購入できる本格的な国産ホームベーカリーとあって、当時爆発的な人気を博した製品となりました。

その開発は決して順風満帆ではなく、プロの味を簡単な操作で家庭でも再現できるよう、反復的なスパイラル・プロセスを経て製品完成にこぎつけたとも言えます。

共同化、表出化、連結化、内面化、それぞれのプロセスをどのように行っていったか、簡単にご説明したいと思います。

SECIモデル松下電器ホームベーカリー
参考文献:(東洋経済新報社、野中郁次郎・竹内広高『知識創造企業』1996年、P162)の図を基にインマイブック株式会社が作成

知識創造スパイラルの第1サイクル

【 共同化 】

まず、パイロットチームの間で「イージーリッチ」を実現する製品コンセプトのための議論が重ねられました。この「イージーリッチ」の示唆するおおまかな「暗黙知」を共有することから始められました。

【 表出化 】

製品の使いやすさを実現するために、各メンバーの暗黙知と消費者の「願望(ウォンツ」が製品特性に表出化されました。また、開発目標は以下の7つに設定され、いかなる妥協もしない決意が固められました。

  1. 材料を入れた後は、パン作りの全ての行程を全自動で行う。
  2. 材料は全て市販のものを使う。
  3. 材料を投入後、タイマーセットし、朝には焼成できている。
  4. 気温に左右されずに美味しいパンができる。
  5. きれいな山型パンができる。
  6. 大量生産の市販のパンよりおいしいパンができる。
  7. 価格は三万円台。

【 連結化 】

次に上記の特徴が「イージーリッチ」のコンセプトとして妥当であるか評価(形式知化)されました。

【 内面化 】

コンセプトに合わせた明示的な知識を組み合わせたプロトタイプが作られ製品コンセプトと照らし合わせる作業(学習)が行われました。しかし、このプロトタイプは、外側が焼けすぎ、内側が生焼けになってしまうという、およそパンとは言えない代物で、結果的に失敗作となってしまいました。

コンセプトを説明するイメージ画像

知識創造スパイラルの第2サイクル

【 共同化 】

ソフトウェア担当者が、熟練パン職人の練りの技能を「共体験」することから始まりました。練りの技術を学んで熟練パン職人になるには、何年もの経験が必要です。そのための暗黙知を習得するためには、かなりの模倣と練習が必要であるため、言語化が難しいことにメンバーそれぞれが困惑してしまいました。

【 表出化 】

共体験をしたソフトウェア担当者は、共同化によって得た暗黙知をハードの仕様として表現できなかったため、「ひねり伸ばし」という言葉を使ってエンジニアに伝えることにしました。パン生地を熱ヘラの強さやスピードを示唆することによって、自分の暗黙知をエンジニアに伝え、エンジニアは細かい指示に応じて仕様を調整しました。

【 連結化 】

次に上記の特徴が「イージーリッチ」のコンセプトとして妥当であるか、再度評価(形式知化)されました。

【 内面化 】

エンジニアたちは「ひねり伸ばし」という言葉の意味をくみ取り、学習の成果としてプロトタイプに再現させました。具体的には、「ひねり伸ばし」の動きを実現するために容器の内側に特殊な「うね」をつける工夫を施しました

熟練パン職人イメージ画像

知識創造スパイラルの第3サイクル

【 共同化 】

「うね」の取り付けによって「ひねり伸ばし」の技術を再現できたことで、プロトタイプの成功を確認した事業部長は商品化の段階へと進めました。商品化チームメンバーの間で暗黙知を共有し、「製品デザインの決定」「品質の安定化」「コストの削減」についていくつかの設計変更が行われることとなりました。

【 表出化 】

品質レベルを守りながら、3万円台の価格を実現させるためには大幅なコスト削減が必要でした。そこで、コストが高くつく冷却器を取り外すために、イーストだけを練りプロセスの途中で加える方法に変更しました。この「中メン」と呼ばれる方法は、メンバーの間の暗黙知の「共同化」と「表出化」の結果、創出されました。

【 連結化 】

しかし、設計変更は発売時期の延期を余儀なくし、品質をとるか、発売のタイミングをとるか、の選択を迫られました。結局、「イージーリッチ」という「組織の意図」への正当化によって、発売時期の延期が決定されました。

設計変更のための暗黙知の共有

製品完成

それまでの松下電器の企業文化は、保守的で現状維持志向であったため、ホームベーカリーの成功は「新しい製品とプロセスの出現」を意味し、過去の伝統からの決別を意味するものになりました。

そして、ホームベーカリーを開発した経験は、各部署を横断するプロジェクトチームを設置することで、部署間の壁を壊し、横のつながりを構築する効果をもたらしました。

ユーザーからは満足の声が寄せられ、エンジニアたちは消費者の本当のニーズを満足させるような本物の質を持った次の製品開発に取り組み始めました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

SECIモデルの概要説明から、暗黙知と形式知がナレッジとして活用された実例までご説明してきました。個々の暗黙知をそのままにせず、組織内の「知」として共有することで、新たな価値を生むことが可能です。

是非、チーム単位の「知」の共有からお試しくださいね。

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