ヘイトスピーチで賠償命令も!外国人差別の原因と解決策とは?
初めまして。ALOTE事業責任者の小澤春奈と申します。<外国人と働く>をテーマに執筆しています。外国人雇用の基礎知識から外国人の生活まで、様々な視点からお話ししていきます。
今回は「外国人差別」についてお話しします。この記事では、外国人差別の実例をもとに、差別の実態が理解できます。また、ヘイトスピーチとは何か。外国人差別の原因と解決策についてもご説明しています。是非最後までご覧ください。
また、別の記事で、「外国人の差別的な呼び方」についても投稿しています。こちらも併せてお読みください。
外国人差別とは?
外国人差別は今や、人権問題に発展しています。言語、宗教、文化、習慣等の違いから、外国人を不当に差別することを指します。
日本における外国人差別は、大きく分けて2つ存在します。
外見的特徴をとらえての「人種差別」。
日本語を母語としているか否かの「言語差別」。
日本国籍を有するか否かの「国籍差別」。
特に顕著なのが、人種差別や言語差別であるように感じられます。移民を受け入れることに積極的でなかった歴史的背景から、「日本人と同じでないものを排斥する」という行動が差別に発展する場合が多く見受けられます。
日本人は外国人差別に対する関心が低い?
下記のグラフは平成29年に行われた世論調査の結果です。人権問題に対する関心を問うもので、外国人に対しては16.0%となっています。
1位から順に、障害者、インターネット人権、高齢者、と続きます。外国人の回答は10番目。自分は関係ない、重要でないと考えている日本人が多いとも受け取れる結果になりました。
在留外国人の人数は約282万人。日本の人口が1億2600万人ですから、その割合は約2.2%に上ります。今後更に増加が見込まれている外国人の人権問題は急務です。
外国人と共生していくためにも、差別は民間や企業でも対策が必要です。差別の実例や原因を詳しくご説明しますので、最後までご覧ください。
(出典:内閣府「人権擁護に関する世論調査」(平成29年10月調査から)引用)
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外国人差別が原因の実例紹介、賠償命令の判決が下った例も。
下記のデータは平成29年の世論調査の結果を基に作成されました。特に外国人への人権問題について、どのような問題が起きているか、という質問です。
(出典:内閣府「人権擁護に関する世論調査」(平成29年10月調査から)引用)
この調査結果に出てくる項目は、ほとんどが実際に起こっています。中には裁判に発展したケースも多くあります。
裁判にはならなくても、外国人差別の種は日常的に存在します。身近で差別が起きていないか。実例のような現場を見たことがないか。今一度ご自身に照らし合わせて、実例を読んでみてください。
実例①公衆浴場における外国人入浴拒否
(原告)ドイツ国籍を有する者。アメリカ国籍を有し、のちに日本国籍を取得した者。他。
(被告)公衆浴場を経営する株式会社
この公衆浴場は北海道小樽にあり、常日頃ロシア人船員が数多く来店していました。土足で店内に入場する、浴室に酒を持ち込み、飲酒しながら騒ぐ。体に石鹼をつけたまま浴槽に入る、飛び込むなどの迷惑行為があったそうです。他の利用者からの苦情も多く寄せられていました。
同様の事態によって、系列のサウナ風呂が廃業に追い込まれた経緯があった株式会社。これ以上の被害拡大を防ぐために張り紙を掲示しました。「外国人の方の入場をお断りします」。一律に外国人の利用を拒否することにしました。
その後、原告らは公衆浴場を訪ね、入浴券を購入しました。しかし、従業員から入浴を拒否され入場できませんでした。
アメリカ国籍の原告は日本国籍を取得し、改めて来訪しましたが、再度拒否されました。従業員が拒否した理由は「あなたは白人であり、外見上は日本人だとわからないから」ということでした。
実例①の判決
「人種を理由に入浴拒否するのは人種差別撤廃条約に違反する」。同店で入浴拒否をされたアメリカ人の有道出人氏(2000年に日本に帰化)とケネス・リー・サザランド氏、ドイツ人のオラフ・カルトハウス氏の3人が、温泉の運営会社と小樽市に600万円の損害賠償と謝罪広告を求めて提訴しました。
札幌地方裁判所は2002年11月、「外国人あるいは外国人に見える者の入浴を一律に拒否するのは人種差別に当たる」と認定。運営会社に対し、原告3名にそれぞれ100万円(計300万円)の賠償支払いを命じ、控訴審もこれを支持して確定しました。
一方で小樽市の責任については、原告側が求めた「人種差別を禁止する条例を制定するなどの具体的な義務」は最高裁でも認められませんでした。
実例①の後日談
有道出人さんは2000年に日本国籍を取得しました。その後同施設を訪れた際にも入店を拒否されています。
「外国人/外国籍だから」という理由で入浴を拒否するのが差別であるのは明らか。同施設が日本国籍を持つ人に対しても「容姿が外国人風だから」という理由で入店を拒否していることが明らかになったわけです。
有道出人氏には日本人の妻との間に2人の娘がいます。事実、同氏が娘たちを連れて前述の温泉を訪れたところ、「母親似で日本人風の容姿」の娘のみが入店及び入浴を許され、「父親似の白人風の容姿」の娘は入店及び入浴を許されませんでした。
【 実例① ポイント 】
・公衆浴場は、公共性を有する施設である。
・国籍、人種を問わず、利用が認められるべきである。
・外国人の利用を「一律に」拒否することは不合理な差別である。
実例②外国人顧客への肌の色に関する質問
(原告)インド国籍を有する外国人。
(被告)不動産仲介業者及びその従業員
賃貸住宅を探していたインド国籍の外国人。不動産仲介業者に電話で連絡して、外国人に賃貸してくれる住宅を探していると伝えました。その際、自分がインド国籍を持つ外国人であることも申し添えました。
この問い合わせに対し、担当者は「肌の色」がどのような色であるかを質問しました。外国人が答えに躊躇していると、重ねて「皮膚の色」と言い換えて質問します。「普通の色ですか」と質問を繰り返します。
外国人が「普通の色とはどういう意味ですか」と聞き返しました。すると、担当者は「日本人みたいな色のことです」と。
インド国籍の外国人は驚き、怒り、失望して電話を切りました。
【 実例② ポイント 】
・外国人顧客からの賃貸住宅の照会に対して、肌の色について直接、執拗に問いただした。
・これは人格的利益を毀損する違法なものである。
実例③スポーツクラブでの外国人差別発言
(原告)台湾出身の日本国籍を取得した女性
(被告)スポーツクラブ会員の60代男性
大阪市内のスイミングクラブで発生した事件。台湾出身で日本国籍を取得した大阪市の女性が男性とトラブルになりました。スイミングクラブに同伴した甥が貸しタオルを間違って使ってしまったことが原因でした。
相手の60代男性はそのトラブルの際、女性にこういったそうです。「ここは日本ですよ。お国に帰られたらどうですか」と。これは日常生活における個人間の「ヘイトスピーチ」にあたると考えられます。
実例③の判決
この台湾出身の女性は、男性に200万円の損害賠償を求めて訴訟を起こしました。これに対し、大阪地裁は60代男性に慰謝料15万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
日常生活における個人間のヘイトスピーチで賠償が認められたケースは異例です。外国人労働者の受け入れが拡大されようとする中、海外にルーツを持つ隣人たちとの関わり方が問われる結果となりました。
【 実例③ ポイント 】
・台湾出身女性の発音などから海外出身だとうかがわれる状況だった。
・排外的で不当な差別的発言であると認められた。
・男性側は「マナー違反を注意した。適切ではない部分があったが、賠償しなければならないほどの違法性はない」と反論していたが、退けられた。
実例④「外国人専用」エレベーター、インターネット炎上
この実例は裁判で争われた案件ではなく、インターネットで炎上した差別の例です。
2021年発生したもので、東京都千代田区のホテル「赤坂エクセルホテル東急」が、館内のエレベーター前にそれぞれ「日本人専用」「外国人専用」と掲示していたことが発覚し、問題となりました。
同ホテルによると、エレベーターに「外国人専用」と張り紙をしていたとのことです。ホテル内のエレベーターは全4基。そのうち2基に「日本人専用」。残りの2基に「外国人専用」としていました。
この時期は東京五輪・パラリンピックの開催時期直前。ホテル側は、大会組織委員会側から示されたマニュアルを踏まえての対策の一環だったと説明しています。感染を防ぐために一般客との動線をできるだけ分けようという意図だったとのことです。
インターネット上で差別との批判があり、撤去しました。ホテル側は「差別する意図はなかったが、誤解を生じさせてしまいおわびする」とのこと。
個人間で賠償にまで発展した、ヘイトスピーチとは?
ヘイトスピーチとは、特定の国の出身者への一方的な内容の言動を指します。その内容は特に、日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするものです。最近は、デモやインターネット上でこのような言動が行われています。
ヘイトスピーチの特徴は、「特定の民族や国籍の人々」が対象であることです。
例えば、「○○人は出て行け」、「祖国へ帰れ」など。合理的な理由なく、一律に排除・排斥することをあおり立てる内容のものです。これは上記の実例③台湾人女性の例がまさに該当します。
他にも、「○○人は殺せ」、「○○人は海に投げ込め」など。特定の民族や国籍に属する人々に対して危害を加えるとするものもあります。
さらに、特定の国の出身者を、差別的な意味合いで昆虫や動物に例えるもの。
「ヘイトスピーチ解消法」の成立、施行
以下の文章は、ヘイトスピーチ解消法についてのものです。平成28年に成立、施行されました。
ヘイトスピーチについて、マスメディアやインターネット等で大きく報道されるなど、社会的関心が高まっていたことを受けて、国会において、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(平成28年法律第68号)」、いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」が成立し、平成28年6月3日に施行されました。
ヘイトスピーチ解消法は、「本邦外出身者」に対する「不当な差別的言動は許されない」と宣言しています。
なお、同法が審議された国会の附帯決議のとおり、「本邦外出身者」に対するものであるか否かを問わず、国籍、人種、民族等を理由として、差別意識を助長し又は誘発する目的で行われる排他的言動は決してあってはならないものです。
(出典:ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律:平成28年法律第68号))
ヘイトスピーチの問題点
ヘイトスピーチの問題点は、人々に不安感や嫌悪感を与えるだけではありません。人としての尊厳を傷つけたり、差別意識を生じさせることに繋がってしまいます。
日本は今後多文化社会への道を進むことになります。そのためには、一人一人の人権が尊重され、豊かで安心できる成熟した社会の実現を目指さなければなりません。そのためにも、ヘイトスピーチをはじめとしたこうした言動は許されるものではありません。
民族や国籍等の違いを認め、互いの人権を尊重し合う社会を築く必要があるのです。
外国人差別が起こる原因とは?
相手への不理解=偏見
原因の一番大きなもの、それは「偏見」です。
言語や習慣、所属、文化、人種の違いを優劣に置き換えてしまう。本来の個々の能力やアイデンティティを無視した考えを持ってしまう。十分な根拠がないのに、特定の集団や個人に対して悪質な意見・考えを持つことが、時には暴力に発展することもあります。
相手に対する十分な理解があれば、このような偏見は起こりません。
また、そのような偏見は、幼少期の環境や教育によって形成されることもあります。間違った価値観を持ったまま成長すると、偏見を持ちやすいと言われています。
大人になってから価値観を改めるのは簡単なことではありません。フラストレーションが溜まると、偏見による攻撃衝動を起こしやすくなります。それが差別行動へと発展してしまう原因になります。
同調圧力から集団心理がエスカレート
「同調圧力」とはこのコロナ禍でよく耳にするようになった言葉ではないでしょうか。集団において、少数派に対して周囲の多数派と同じように考え行動するよう、暗黙のうちに強制することを指します。
個人レベルでの攻撃だけにとどまらず、多数派と同じであることを強制し始めます。この同調圧力がエスカレートすると、同じでないものを排除し始めるのです。
個人的な攻撃衝動だったものが、同調圧力による集団心理で人種差別へ発展してしまいます。個人を取り巻く共通の集団や社会構造が、人種差別に影響を与えてしまっていると考えることもできます。偏見によって自分と異なるものを全て排除するのは許しがたい差別です。
不満(フラストレーション)の高まり
残念ながら、現代において人種差別はどの人種間でも起こりえます。それは人間として持っている精神的なゆがみや異常性によるものだと考えられています。
例えば、景気の低迷や疫病などの社会不安が生まれたとき。新型コロナの影響が強く残る今のような状況がまさにそうだと言えます。このような状況化で、社会的弱者への攻撃が起きる原因が精神的ゆがみなのです。
その不満のはけ口が外国人をはじめとする社会的弱者になりがちです。
この不満はフラストレーションとも呼ばれます。インターネット上で匿名性を利用して弱い相手を攻撃が引き起こされるのも、攻撃衝動が増すためです。この衝動は、社会不安が要因になっていると考えられます。
また、この精神的なゆがみは差別や偏見にもつながっています。そこから人種差別が起こってしまうため、根源的な原因であるとも言えます。
外国人差別を防ぐ取り組み・解決策とは?
各省庁での取り組み①法務省
法務省の人権擁護機関では、啓発活動を行っています。外国人に対する偏見や差別の解消を目指しており、具体的には、講演会等の開催、ポスターの掲出やリーフレットの配布等の取り組みを行っています。
また、英語や中国語等の通訳を配置した外国人のための人権相談所を設置しています。ここでは、日本語を自由に話せない外国人からの人権相談に応じています。
上記以外にも、ヘイトスピーチ防止への啓発活動の取り組みが挙げられます。ヘイトスピーチが社会的関心を集めていることから、この問題に焦点を当てて取り組んでいます。
(出典:法務省「ヘイトスピーチ、許さない」)
各省庁の取り組み②文部科学省
「外国人児童生徒等教育の充実のために、日本語指導等を行うための教員定数の加配措置、独立行政法人教員研修センターにおける日本語指導者等に対する研修、各自治体が行う公立学校への受入促進・日本語指導の充実・支援体制の整備に係る取組を支援する事業等を実施しているほか、学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)において日本語指導が必要な児童生徒を対象とした「特別の教育課程」を編成・実施できるようにしている。」
(出典:内閣府 男女共同参画局「外国人が安心して暮らせる環境の整備」より引用)
上記の取り組みは、家庭で日本語以外を使用している外国人に特に有効です。外国人の子弟で、両親が日本語を使用しない場合、家庭では母語のみで生活している場合が多いのです。そのため、その子供が公立学校に就学した時、特に読み書きに支障が生じる可能性があります。
そのため、日本語指導のための教員を追加で配置するなどの措置が取られます。「取り出し授業」と呼ばれる、該当児童を別教室で指導する方法もあります。そのためには、従来の学校教員だけでは、人員としても能力としても十分でない可能性があります。日本語教師の派遣が必要になった場合の措置が上記のものです。
解決策のキーワードは「多文化共生」
政府としての取り組みを2つご紹介しました。では、私たち個人個人ができる、差別をなくす解決策はないのでしょうか?
それは、相手を理解しない「不理解」から来る偏見をなくすことです。
外国人差別の解決策として私たちにできること
具体的な行動のひとつめは、「興味を持つ」こと。私たちの隣人はどんな人なのでしょうか?まずは興味を持つことから始めましょう。見ざる、聞かざる、言わざる、の我関せずでは前に進みません。まずは「どんな人だろう?」という意識を持つことです。
ふたつめに、「正しく知る」こと。差別の根底にあるのは「偏見」だとお話ししました。偏見とは、片寄った見方や考えを指します。客観的な根拠がなく、非好意的な先入観から来る場合が多いのです。相手への間違った知識は偏見へ変わります。正しい知識を得て、相手を正しく客観的に理解しましょう。
みっつめは、「受け入れる」こと。相手のことを正しく知って、いろいろなことがわかったと思います。自分が持っている文化や習慣、宗教、考え方など違いがあることも理解できたはずです。その「違うことを受け入れる」ことが大切です。違うものを排除するのではなく、受け入れるという姿勢を持ちましょう。
よっつめは、「歩み寄る」こと。相手との違いを受け入れたうえで、隣人として仲間として歩み寄りましょう。日本社会に慣れていない外国人の場合、最初は距離があるかもしれません。こちらから歩み寄り、必要であれば手助けすることで、相手との距離が縮まるかもしれません。
個人ではなく、周囲を巻き込んだ取り組みへ
上記の4つは、一人でする必要はありません。会社で、近所で、学校で、家族で、あらゆるコミュニティを巻き込んでできることです。特に、幼少期から多文化共生に触れた子は、自然とその考え方ができるようになります。
せっかく共に生きる仲間になったのです。お互いに暮らしやすく、共生できる社会にしていきたいですよね。
外国人のための人権相談
外国語インターネット人権相談受付窓口でも対応しています。こちらは英語版、中国語版の二か国対応です。
職場や身近で困っている外国人には積極的に声をかけていきましょう。差別かどうか不明な場合も相談することができます。
(英語版/English )
https://www.jinken.go.jp/soudan/PC_AD/0101_en.html
(中国語版/Chinese/簡体字)