労働時間が国多い(長い)国。産業構造の変化とワークライフバランスの関係とは?世界おもしろランキング⑤
初めまして。ALOTE事業責任者の小澤春奈と申します。<外国人と働く>をテーマに執筆しています。
外国人雇用の基礎知識から外国人の生活まで、様々な視点からお話ししていきます。
今回は「世界で労働時間が多い国」についてお話しします。
この記事を読めば、世界的に見てどの国の労働時間が多いのかがわかります。また、労働時間が多くなる産業構造についてもご説明します。
労働時間が多い国ランキング
労働時間の調査は主に2つの機関が行っています。
ひとつめが、国連機関の一つである、ILO(国際労働機関)です。このデータを基にして、総務省統計局が「世界の統計」としてまとめたものをランキングにしました。
ふたつめが、OECD(経済協力開発機構)です。現在38カ国が加盟しており、世界の貿易・投資活動の約80%がOECD加盟国間で行われています。このOECD加盟国は経済に関するデータを共有し、調査・分析に活用しています。日本はOECDの原加盟国のひとつであり、この調査にも参加しています。
ILOとOECD、それぞれの調査方法や調査対象が異なるため、ランキングは両方を作成しました。
それぞれを見比べて参考にしていただければ幸いです。
ランキングトップ10 総務省統計局「世界の統計2022」より
こちらが総務省統計局がまとめた、1週間の労働時間が多い国ランキングトップ10です。
このデータの出典は、国連のILO(国際労働機関)の ILOSTAT Database (2021年12月ダウンロード)が基になっています。
【 データ概要 】
- 就業者の1週間当たり平均実労働時間をまとめたもの。
- 対象は雇用者。
- 労働時間は、調査期間に実際に働いた時間を集計。
- 自家使用生産労働者を除く:ベトナム、サウジアラビア、マレーシア
- インドネシア:2015年のデータ
- サウジアラビア:ふだん働く時間、フルタイム雇用者のみ
このランキングを見る限りでは、アジアや中南米を中心に労働時間が多い傾向にあります。
1週間の労働時間なので、週5日勤務の場合、1位のバングラデシュは1日に10時間以上働いている計算になります。しかし、バングラデシュの全労働者数は約6,000万人と言われていますが、その90%以上は非正規雇用者とされ、実態はつかめていません。
1位バングラデシュの産業構造と労働環境
バングラデシュは日本の約4割程度の国土に、1億6,000万人以上の人口を抱える国です。日本より人口が多いんですね。
雇用人口は6,000万人で、その内訳は、農業(40.6%)、サービス業(39.0%)、工業/製造業(20.4%)となっています。(2017年バングラデシュ会計年度、バングラデシュ統計局)
農業従事者が多い産業構造ではありますが、GDPの内訳では、サービス業(51.30%)、工業/製造業(35.36%)、農林水産業(13.35%)となっており、特に衣料品・縫製品産業の輸出が盛んです。
バングラデシュは豊富で安価な労働力があることから、ファストファッションブランドの縫製工場が急増し、世界のアパレル企業の生産を支えています。トレンドの変化が激しく、機械化だけで賄うのが難しいアパレルは、手作業のミシンでクオリティーの高い製品づくりを必要とされています。
これまでは中国がその担い手でしたが、経済成長による人件費の高騰を受け、まじめで手先の器用な国民性のバングラデシュへシフトしているのです。
バングラデシュの劣悪な労働環境
アパレル業界の需要の高まりから、バングラデシュの労働環境は悪化の一途をたどっています。
バングラデシュの労働法では、1日8時間以上の就業を禁じています。しかし、守られていないのが現状です。それが順守されていれば、上記のような51時間/週、つまり1日10時間以上の労働時間にはなりえません。
また、最低賃金が守られない、残業代の未払い、工場内の環境の悪さによる工員の罹病率の高さ、児童労働、など問題は山積しています。
有名アパレル企業と契約するほとんどの工場では、労働環境改善に注力してはいますが、発注増に対応できず、一部を外部委託に出すケースも増えています。こうした非正規工場の労働環境の悪化が深刻化しているようです。
2013年には首都ダッカの近郊の縫製工場(8階建てのビル)が崩落し、死者1,138人を出す大惨事になりました。犠牲者の多くは縫製工場の女性工員たちで、アパレル業界史上最悪の事故と言われています。
この「ラナ・プラザの悲劇」を受け、火災予防と建築物の安全にかかわる協定が置かれ、UNIQLOなどを含むアパレル企業222社が署名しました。
ランキングトップ10 OECD「労働時間2020」より
変わって、こちらのランキングはOECD(経済協力開発機構)のデータを基に作成しました。
現在、OECD加盟国の数は38カ国で、最新の加盟国はコスタリカです。加盟国はOECDの専門家と協力し、データと分析を活用して自国の政策決定に情報提供しています。
【 データ概要 】
- 1年当たりの実労働時間の合計を、1年の平均雇用者数で割ったもの。
- 対象は、雇用者および自営業の労働者。
- 実労働時間には、フルタイム、パートタイム、年間の一時期のみ働く労働者の正規労働時間、有給および無給の時間外労働、追加就業の労働時間が含まれる。
- コロンビア:2019年のデータ
上記は総務省統計局(ILOのデータ)と異なり、年平均労働時間を算出したものです。
比較のために申し上げると、上記OECDランキング1位のコロンビアは年平均2,172時間。一年間は約52週ですので、41.72時間/週の労働時間に換算できます。
総務省統計局のランキングでコロンビアは6位、43時間/週ですので、調査方法によって多少の違いが出てくるようです。
メキシコの場合、法定労働時間が週48時間で原則週休1日制で、祝日も少ないことが労働時間の多さに繋がっています。また、隣国アメリカからの企業が多く進出していることも労働時間に影響を与えているといわれています。
労働時間世界3位の韓国では、2018年に1週間の労働時間の上限を68時間から52時間に引き下げる「週52時間勤務制」を含んだ労働基準法改正を行いました。それを受けて民間企業の多くで労働時間自体は短縮されたものの、その減少分を補うために時間外労働をする人が増加し、結果として長時間労働につながってしまったと考えられます。
1位コロンビアの産業構造と労働環境
どちらのランキングでも上位に登場したコロンビアですが、就労時間はいずれも長い国とされています。
主要産業は農業で、コーヒー、バナナ、サトウキビ、ジャガイモ、米などの生産が中心です。その他には鉱業で、石油や石炭、金、エメラルドなどの鉱物資源に頼っています。
失業率は15.9%(2020年コロンビア国家統計局)、経済成長率は-6.8%(2020年IMF)。国民の一部に富が集中し、労働者の権利はないに等しい環境と言われています。
ストライキを起こしても、公共秩序を乱すとして法的に排除されてしまいます。労働組合を立ち上げた場合、リーダーが襲撃される事件が頻発しています。過去50年でその類の事件は1万5,000件以上、3,000件以上は殺人事件(暗殺)されています。
労働時間ランキング、日本の順位は?
ワーカーホリックの国と呼ばれることの多い日本ですが、今回のランキングの上位には登場しません。
労働時間調査のカラクリと日本の労働事情を見ていきましょう。
総務省統計局(ILOデータ)では18位、OECD公開データでは26位
ILO公開データによると、日本は18位で37時間/週。
OECD公開データによると、日本は26位1,598時間/年間。
数値だけ見れば、意外に労働時間が少ないことに驚かれる方は多いと思います。トップ10にも入っていないのはもちろん、OECDの平均である1,687時間よりも少ないことになります。
フルタイムで働いているみなさんにとっては、信じられない数値かもしれませんが、実は、これにはカラクリがあるのです。
労働時間減少は、パートタイム労働者の増加が原因
上記のOECD調査には、パートやアルバイトなどの短時間労働者、非正規労働者の労働時間も含まれています。
日本のパートタイム労働者(週30時間未満労働)の割合は25.8%で、世界第4位です。OECD平均は16.7%ですので、世界的に見ても高い数値だと言えます。
パート労働者の実労働時間は1100時間程度であるのに比べ、フルタイム労働者は2000時間前後であると言われています。フルタイム労働者の半分程度の労働時間であるパートタイム労働者の増加により、労働者全体の平均労働時間は減少傾向となっています。
つまり、日本の労働時間の減少は、パートタイム労働者比率の上昇によるものと考えられるのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
新型コロナの世界的流行と働き方改革を受け、日本では生活における労働の位置づけを変化させつつあります。ワークライフバランスは以前にもまして重要視され、リモートでの在宅勤務の継続を望む声が後を絶ちません。
世界的には週休4日制が導入されるなど、労働環境はより一層の変化を求められていくこととなります。
この流れに乗り遅れることなく、生産性の高い労働環境を構築していくことが企業にとっての責務であるとも言えます。
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